ボディロッキンで激ヤバ

ワンパクでもいい。ボディロッキンで激ヤバであれば。

無法地帯という言葉の意味~『ボーダーライン』を観て~

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 映画『ボーダーライン(原題『Sicario』)』を観てきました。

 僕はこの映画、色々と噂を聞くよりも前に、YOUTUBEでなんか映像が流れていたのを見たことで知りました。なんかスゴイ映像の映画があるんだな、と。そして、コメント欄を見てみると、どうやら日本ではまだ未公開の映画っぽい。そして、評価がすこぶる高い。

 評価の中身を見てみると、どうやら「戦闘シーンがすごい」とか「リアルな戦闘シーン」とか「戦闘シーンがえげつない」とか、お前ら戦闘民族かと言わんばかりの戦闘シーンべた褒め。

 主演もエミリー・ブラントだし、まぁ、トム・ハンクスのいない『オール・ユー・ニード・イズ・キル』みたいなもんだろ、と思って勇み足で観てきました。

 以下、完全にネタバレ全開で感想を書きます。

 

 

 

 一言で言うと、「重たすぎ」ですね。特に、最初の突入シーンの凄さと言ったら、筆舌に尽くしがたいものがあります。ここで、観てる人たちは気がつくわけです。「あ、この映画、なんでもありだ」ということに。『オール・ユー・ニード・イズ・キル』を観に来たつもりが、どうやら観てるのは『ノーカントリー』だと気がつくわけです。

 特に、初っ端の爆発シーンは、それを象徴しています。普通に考えて、開始10分であそこまでえげつない爆発させないですよ。もうそれで「この映画、エミリー・ブラントが死んでもおかしくない」となるわけです。

 映像、カメラ割りもいいのですが、何よりもいいのは音響です。最近の、重たい音がずっと鳴ってる、というのをよりマッシブにした、というか、もう耳に刺さるほどの不協和音をノイズ音楽みたいにぶち込んで緊迫感を表現しています。しかも、それが完璧なタイミングで車の音や、外の音と融け合ってしまうせいで、映画と現実の境目がなくなっていく感覚を味わえます。BGMは、BGMじゃないんですよ。それも一つの音として、世界に存在しているように感じるんですよ。

 この映画、アクションシーンはもちろんすごいんですけど、はっきりと「ここアクションしてますよ」というシーン自体は多くないんですよね。ただ、緊迫感がずっと続きっぱなしなので、まるでずっとアクションシーンの中にいるような感覚に陥ります。それを象徴するように、映画の最初のほうで、マットが言うセリフが「どこでも寝れる訓練だ」でした。つまり、普通の睡眠(安心できるシーン)がとれることはないぞ、という脅しです。そして中盤以降、銀行でエミリー・ブラントの顔が割れて以降は、本当に彼女には安息が与えられなくなります。ここら辺でもう、僕はすごい疲れました。この映画、なんてしんどいんだ、と。エミリー・ブラントの濡れ場寸前でこの仕打とか、悪魔の所業かとしか思えませんでしたね。

 ただ、一言文句を言うとすれば、アレハンドロの戦闘シーンに関しては「これってリアルか?」と思ってしまいましたね。だって、強すぎるというか、もはや007レベルに強いじゃないですか。まぁ、それも僕の映画見るまでの先入観があったから、というのもあるので、これに文句つけるのはおかしいかもしれませんね。

 

 あと、個人的にすごく面白かったのは、この映画には「麻薬戦争」とは別の戦いが描かれていまして、それは「平和を守るために法律を破るべきか」という問答ですね。まぁ、よくある問答ではありますが。

 この映画では、ジョシュ・ブローリンが、本当に法律を破って色々な謀略を繰り広げます。更には、主人公たちをその目的のために利用する、という始末。そして、彼を裁く人間は誰一人いない。なぜなら、彼には「アメリカの平和」を守るため、という免罪符が与えられているからです。

 しかし、それが意味するのは「法律なんて守る意味が無い」ということであり、それは麻薬カルテルが支配するフアレスと、もしかすると変わらないのかもしれない、ということです。

 この映画で描かれるメキシコという国は、本当に地獄です。毎日、橋から首なしの死体が吊るされ、子供たちがサッカーをして遊んでいるグラウンドに銃声が鳴り響くような場所です。アメリカはそんなことありません。まだマシです。しかしながら、実態はどうなのか。結局は、麻薬カルテルかアメリカの政府の違いくらいしか、そこにはないのではないか、と思わざるを得ません。

 特に、最後にエミリー・ブラントに銃を突きつけて「全ては法律に則ってやったとサインするんだ」というシーン。あれって、麻薬カルテルがやってることと同じですよね。あれはアレハンドロがやらせてるから、ある意味で弱くなっていますけど、やってることはアメリカもメキシコも同じじゃん、ということですよね。「それってどうなの?」という問題提起。

 これは、反スパイ法とかについてもきちんと考えなくてはいけないな、と思いましたね。反対するにしても賛成するにしても、その内容をきちんと見ておかないと、その法律はいつでも無効化されるわけです。というより、法律というものは国を縛るはずのものだ、という基本概念を持っておかなくてはならないな、と思いました。

 エミリー・ブラントが、ジョシュ・ブローリンたちの方法を嫌い、きちんと法律に則って悪人を懲らしめよう、と上司に提言する場面があります。ここのやりとりは、非常に良かったです。というのも、上司が言っていることと、エミリー・ブラントが言っている内容が、全く噛み合っていないからです。

 簡単に言うなら、エミリー・ブラントは「法律違反を罰することが平和を守る」と言ってるわけです。それに対して上司は「法律は足かせだ。だから、君たちのためにその足かせは外しておいたよ。法律なんて気にしなくていいよ」と優しく語りかけるんです。

 この交差具合。全く噛み合ってない感覚。上司にとっては、法律を守らないでいいよ、というのが、エミリー・ブラントのためになると本気で思ってるんですよ。なんなら、感謝してね、というくらいに。この発言を【法律に違反した人を捕らえることを職務としている】はずのFBIが言っちゃうんです。これはもう、凄い脚本ですよね。ただ、これ、現実にFBIがCIAと共同で参加するとなると、有り得る話なんですね。

 でもそれって、君らがやってることってなんなの? という話になりますよね。法律ってなんなの?という話になります。

 

 という風に、非常に重たい内容とテーマを詰め込んだ、かなりの力作だったと思います。

 個人的には85点です。