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ボディロッキンで激ヤバ

ワンパクでもいい。ボディロッキンで激ヤバであれば。

良い奴! アメリカ!~『ブリッジ・オブ・スパイ』を観て~

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 映画『ブリッジ・オブ・スパイ』を観てきました。近年のスピルバーグ監督作品としては非常に評価が高く、Rotten TomatoesやIMDBでもポップコーンが弾けまくってる作品です。

 作品の内容としても、この時代に流すべき主張を描いている大作です。

 ただ、個人的に言うと、今ひとつでした。色々とネタバレのことをぶつくさつぶやきます。

 

 

 

 

 まず言いたいのは、なんで主人公はスパイを助けるのか分からない。

 別に、理由が全くわからないわけじゃない。それで、人の命を救えるし、それが法律だからだ。主人公も映画で最初のほうで言ってる。「アメリカは法律が作ってるんだ」と。別にそれはいい。よく分かります。

 ただ、だからと言って、このトム・ハンクスがスパイを助ける理由にはならない。葛藤は少し描いていたけれども、基本的に主人公は家族のことも顧みず、勝つ見込みの無い弁護を引き受ける。(しかも勝ってしまったために、家に銃弾までぶち込まれる)

 それがなぜなのか。例えば、そういう、何か事件が過去にあったのか。それとも、揺るぎない信念があったのか。それとも、単にトム・ハンクスが良い人っぽくて、困ってる人を見たら、助けずにはいられない、草なぎ剛みたいな人なのか。この映画では全く描かない。

 多分、さっき言った、映画の冒頭に出てきた「ルールを守る」という信念が、彼をそうさせた、というのが答えなんですかね。そうだとすると、スパイを交換するのは、そういうルールはあるの? 戦争法みたいなので。あったら、主人公の出番は全く無いわけですよね。

 ここで主人公がとってる行動はルールとかどうでもよくて、人を助けることが一番大事なことだ、という自分の主義を持ってる、ということでしょう。だからドイツでも、学生を助けようとするわけでしょう。

 追い打ちを掛けるように、最後の最後、ニュースでスパイを交換したことを告げる時、聞き逃してはいけない言葉が出てくる。「大統領が特例で」と言っている。これはルール内の話なのか? それってだから、ルールなんてどうでもいいってことじゃないの?

 で、結局主人公がこの事件に巻き込まれた唯一の理由というのが、ただ彼が【良い人】だったから、に落ち着いてしまうんですよね。しかも、何の説明もなく。

 それで僕はもう、トム・ハンクスだから、こういう主人公なんですよ、みたいに感じたわけですよ。何も説明しないけど、トム・ハンクスが渋い顔で寒い中頑張ってたら同情するでしょ? とか、ソ連のスパイはおあつらえ向きに老人を用意して、可哀想でしょ? 好きな絵も書けないし、好きな音楽も聞けないし、みたいなノリで話を進める。で、こういういい人たちだから、助けなくちゃダメでしょ、みたいな。もちろんそれは否定しないし、そういう考えの人とは仲良くしていきたいけど、この映画ではただの甘えにしか見えないんですよね。

 

 まぁ、これぐらいなら、普通に面白くなかったな、で終わったと思います。特にブログにも書かなくて良いかな、と思いました。映像的にはすごい良いし、ソ連のスパイのおじいさんを含め、KGBのおじさんとか良い味出してる人がいっぱいいて、そこそこ楽しめるし。主人公も、人の良いおじさんが頑張ってドイツまで行って、色んな人を助けたいい話だね、で終わる話だと思います。

 一番気に入らなかったのは、東西のスパイの扱いの描写です。結構これはイラッとしました。

 と言うよりも、これのせいで、それまでは割と好意的に思えたこの作品が、すごく下品なものに思えました。

 早い話が、「なんだ、ただのアメリカ万歳映画じゃん」と思ったわけですよ。

 

 まず、ソ連で捕まったスパイやドイツで捕まった学生の待遇の酷さ。これは、たしかにそうだったと思います。あの時代、ソ連とかの拷問とかやばかったとは思いますし、あれ自体はありがちではありますが、捕虜の描写としては正しいと思います。

 ただ、アメリカで捕まったソ連のスパイは、全くそういう描写がありません。と言うよりも、されてない。ていうか、絵まで書いてる。絵の具もらってる。

 実際にそうだったのかどうか、というのは、はっきり言って誰にもわかりません。アメリカで捕まったスパイは、本当に裁判をきちんと受けて、勝てばきちんとした収容所で、刑期を全うできたのかもしれません。逆に、ソ連でつかまった人はもう寝る間も惜しんで拷問水攻めライトビカーで暖房設備も全く無い、いや本当にもう、同じ人間とは思えないような責めを与えるわけですよ。

 もちろん、本当だったかもしれませんよ? でもそれって、ハリウッド映画でやっちゃうと、もの凄いプロパガンダ臭がしませんか? というか、すごい下品だと思いました。

 これって、早い話が「アメリカは凄い民主的で良い国で、他の国は利己的でひどいです」って言ってるようにしか見えないんですよね。

 もちろん、主人公に対しての激烈なバッシングとかで、アメリカの暗い部分を見せてる、とも言えるかもしれません。ただその考えって、あの頃のアメリカだったら普通ですよね。銃弾打ち込むかどうかはあれですけど。しかもそれって、主人公が勝手に裁判で勝ってしまったから起こってることじゃないですか。スパイとかは、国が個人を蔑ろにした結果捕虜になってるわけでしょ。意味合いが違うと思います。しかも、ソ連の捕虜への扱いも、普通だと思うんですよ。戦時中なら。

 でも、捕虜の扱いの一点だけ、えらいアメリカを美化してるんですよ。これは相殺できないですよ。何回も言うように、本当にそうだったから描いているんだとしても、アメリカがそれをそういう風に描くのは、フェアじゃないんですよ。死体に蹴り入れまくってるようなもんなんですよ。

 ぼくはもっと、おじいちゃんをボコボコにしたらいいのに、と思いました。凄いひどい発言だとは思いますけど。それでやっとイーブンだと思うんですよ。特にハリウッドの映画なんだから、それくらいやらないと、ホームアドバンテージ?みたいなのあるじゃないですか。そこのさじ加減間違うと、プロパガンダ映画になってしまう。

 で、なんでこの話がイラッとしたかって言うと、僕は上述した、トム・ハンクスの言葉が気に入っていたからです。トム・ハンクスは、スパイの弁護人としてCIAにこう聞かれるわけです。「あいつはなにか喋ったか」と。それに対して、弁護士のルールとして、依頼人との話は他言できない、と答える。CIAは「戦争中なんだから、ルールなんかどうでもいいだろう?」と言う。そこで、トム・ハンクスは逆に質問をする。「お前の親はどこの国から来たんだ?」と。そして、自分もアイリッシュだと言い、何がアメリカ人を決めるか、という所で「ルールがこの国を作ったんだ」と諭す。だから、ルールを破ることは出来ない、と。

 僕はこのシーンだけなら、100点満点です。大好きですし、この話はこの時代にこそ求められている答えだと思ったからです。

 異文化を許容し、すべての人にできるだけ平等であろうとする、という信念があると思ったからです。それがこの映画の根本なんじゃないかな、と思ったんですよ。

 なのに、ですよ。やってることはルール関係ないって感じだし、スパイの扱いの描写に関して言えば、アメリカ以外はダメダメですよ、という感じですよ。

 

 そういう意味で言うと、最後の結末もひどいですよね。

 だって、あのおじいさんKGBに殺されますよ。「ハグしてもらえるか、黙って後部座席に座らされるかで分かる」という言葉をそのままで受け取るなら、ですけど。

 で、それに対して、主人公は全く何の葛藤もないんですよね。アメリカ人を救うために、心通わせたはずの老人を断頭台に送っておきながら、主人公は全く悪びれず、「これで故郷に帰れるよ」なんて言うわけですよ。KGBに「彼の帰国後の処遇は?」なんて聞いてましたけど、結局は何の意味もない質問でした。なんか、「処遇がひどそうなら、返さないでおこうかなぁ」とかいうのも無いですよ。

 いや、故郷で死にたいっていう気持ちも分からんでもないですけど、そこはもっと丁寧に描写しても良かったんじゃないのか、と思います。だって見ず知らずのアメリカ人パイロットと、少しでも話したおじいさんとで、そんな簡単に天秤にかけれますか? それをただの美談にするってのはすごく不謹慎だと思いますよ。こう、アメリカ人を救うために、死んでくれっていうシーンは必要じゃないんですか。

 それって本当に【良い人】なんですかね。

 で、アメリカ人二人を救って、それをニュースや新聞で大々的に報道して(ニュースで流すか?って思いましたね)、アメリカ人で一番の嫌われ者だった主人公の面目躍如、という感じで終わりましたけど、あれも裏を返せば「アメリカ人を助けたから」みんなから好かれたのであって、それって異文化の許容とは全く逆ですよね。それ自体は美談じゃなくて、アメリカ人として恥ずべき部分じゃないんですかね。わからないですけど。

 それで、これみよがしにフェンスを飛び越えてく若者が車窓から見えるわけですよ。ドイツでは銃殺だけど、アメリカでは自由だ! アメリカ最高!って感じで。すごい失礼ですよね。だって、今までの話総括すると、アメリカで入国手続とらない奴は死んでもいい、ってことじゃないですか。そういう意味でのルールですよってことでしょ。しかも、別にそんなルールもアメリカ人じゃなければどうでもいいしね、って感じですよ。

 

 まぁ、というのは僕の心が荒んでるからなんでしょうね。

 非常に映像も綺麗で、楽しい映画でした。

 個人的には、50点です。