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【ネタバレ】ヒーローに呪いは必要か?〜『スパイダーマン: スパイダーバース』〜

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アニメーション映画『スパイダーマン: スパイダーバース』を観てきました。スパイダーマンの映画は果たして何個目だ、というくらいにリブートの多い作品ですが、人気者の宿命といえばそれまでか。
徒然と感想書きます。


・素晴らしい映像
スパイダーマンの映画は、他のヒーロー映画やSF映画同様に常に最新の映像技術の博覧会のようなものとなるが、今作もまた最新CG映画の見本市の色合いが見て取れる。
詳しくはパンフレットを見ていないので分からないが、実写と見紛うばかりの風景と、その中にカートゥーンライクなキャラがいても全く浮いている感じがしない。恐ろしいほどに美しい色彩と、そこに矢継ぎ早に繰り出される二次元と三次元の架け橋のような演出、動き。
実写のように見えすぎることに意味はない、ということを百も承知の映像美は素晴らしいの一言。
この映画にお金を払う価値があるとすれば、まさしくその映像美だ。


・ベンおじさんの説教という呪い
スパイダーマンのリブートはファンに色々な感情を思い起こさせるが、その複雑さの一つには「またベンおじさんの説教を聞くのか」「時報(ベンおじさん)」という感情も含まれる。
ベンおじさんの教えはスパイダーマンという作品を、ただのおちゃらけてPOW!とか言いながら悪人を殴りつける作品から、大人まで魅了する暗さを持つ作品に昇華させた、最大の功労者と言える。
スパイダーマンの原作は明るい主人公とは対照的に暗く、陰鬱な部分が色濃い。その明るさすらも、影を濃くする効果を持っているほどに。それはベンおじさんの教えが、「力を使うことは、その対価を支払うこと」と言っていることに他ならないからだ。
つまり、この教えは、言ってしまえばスパイダーマンを「抑えつける」教えでもある。この教えは彼を解放せず、常に首筋に置かれたナイフのように彼の人生に影を落とす。スパイディの人生は、常にこの教えがあるために、自らの責任の代価を支払いながら、彼は傷だらけのままヒーロー稼業に勤しむ、という状態となっている。(『アメイジングスパイダーマン2』はそこを描ききった名作だと思うが、世間の評価は低い)
それに対し、今作の教えは「解放」だ。今作でも叔父が目の前で死ぬことで、マイルスはスパイダーマンになる。そこには同じ悲しみ、同じ痛みがある。(痛みの共有はマーベル映画では重要な概念だ)しかし、今際の際の叔父の言葉は、ベンおじさんとは真逆だ。錨のようにピーターパーカーの心に居座ったベンおじさんとは違い、今作のおじさんは「お前の好きなことをするんだ」と背中を押す。少なくとも、力の抑制を教えるのではない。
それを無責任と言うことはできる。ベンおじさんの教えはたしかに正しく、マイルスはその責任に対して未だ無自覚だ。いつかその責任を取る日がやってくる。ただ、それが今である必要はない、というのが今作の話だ。
「ヒーローは犠牲となる者」とすることは簡単だが、それはヒーローに対して求め過ぎなのではないか。彼らの傷の上に成り立つニューヨークは確かに美しい。だが、それはあまりにも残酷な徒花だろう。
今の世界は、おそらくは誰かを犠牲にすることに対して感じやすくなってしまった結果、目を閉ざそうとしているか、なんとか救おうとしているか、どちらかに別れているのかもしれない。それが移民の問題や、すべての問題に通じているのでは、と個人的には思う。そして、ヒーローとは誰よりも感じやすい人間なのだ。感じやすいからこそ、誰かを守らずにいられないような。たとえ、不格好で、傷ついたとしても。
今作は思想的にも現代的にブラッシュアップされた作品だった、と言える。


・スタン=リーのシーンは涙腺崩壊
スタン=リーが出てくるヒーローグッズ店のシーンは、もとより悲しい演出が施されていた。そして、悲しみを覆うほどのネタ要素も。しかし、今となってはそれすらも「スタン=リー節」に感じられ、涙を流さずにいられなかった。
もはや、全てのクリエイターに対して投げかけるようなそのセリフは、脚本家の意図を遠く投げ飛ばし、遺言のように感じた。
もちろん、ここで言っている「いつかはスーツに合うようになる」というセリフが、マイルスが後にスパイダーマンとして覚醒することの伏線となっているなど、物語上重要であることには変わりないのだが。(スーツと顔の反射がどの位置にあるかなど、小気味よい演出も悪くなかった。クドかったが)
ただ、人生はいつでも返品不可だし、いつだって自腹だ。


・音楽も素晴らしい
スパイダーマンはストリートのヒーローだ。そんな彼にはヒップホップが似合うのは当然か。とにかく、サントラは買う。


映像も思想も素晴らしく洗練された、まさに新しいスパイダーマンの世界に没頭できる良作だった。
スパイダーマン映画で一番、という人がいてもおかしくはない。