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【ネタバレ】在りし日の管理された思い出~『COP CAR』を観て~

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 ケビン・ベーコン出演の『COP CAR』を観てきました。

 前評判で、これは良さそうだ、と思い、近場の映画館に乗り込んだ次第です。

 ネタバレ全開ですが、よろしくお願いします。

 

 

 まず、全体としては、凄く良かったです。と言いましても、この作品、上映時間は凄く短い。1時間半くらいですかね。かなり短いです。話自体もかなり急ピッチで進むといいますか、事態があれよあれよという間に転がっていき、最後にはそう来るか、というオチが付くという感じです。話自体も、ほぼ予告の内容で事足りるというか。

 音楽の使い方も良かったです。メインテーマも不穏な感じでカッコ良かった。

 あと、この話って大体一日で終わる話だと思いますが、昼頃から夕方になり、そして夜になるという当たり前の風景が、やけに美しく胸に残ります。昼間っから愉快に友達と隠語連発の楽しい旅だったはずが、いつのまにやら銃をつきつけられ、正義の味方であるはずの保安官にも脅され、最後には真っ暗闇の中、家に向かって全力疾走をするという、ある意味でジェットコースターな人生ですよね。

 

 冒頭での少年たちが、やることなすことが無鉄砲すぎるし、10歳位なので、計画もずさん。最初に例の車を見つけた後の行動を見ると、ただ遊んでいるだけにしか見えません。ただ、この頃ってこういうの大真面目にやってたよなぁ、と懐かしい気持ちになります。パトカーにタッチしようぜ、なんて、何考えてんの、という感じです。

 ここら辺は、『スタンド・バイ・ミー』観てる感じですね。小学生くらいの少年二人による、幼少期のいい思い出。素晴らしい。

 ただ、銃で遊んでる時なんかはホラー映画の何倍も怖いです。あぶねーから! 銃口を覗くな、マジであぶねーから! と映画館で思わず叫びそうになりました。親の気持ちになれる映画でもあります。まぁ、最後には結局銃が暴発するというところも含めて、いわんこっちゃない、という親の気持ちに。

 なんというか、コメディとホラーをうまい具合に融合させられてる気分ですよね。

 

 あと、ケビン・ベーコンの演技も、本当に良かった。出てくる人みんな良かったですけど、ケビン・ベーコンの、あの「優しいけど凄い怖い」感じは、さすがだな、と思います。子供たちに語りかけてる言葉の端々に「あれ、この人、やっぱなんかおかしくないか?」という感覚。しかもこの映画のケビン・ベーコンは、本当に普通の警官なんですよね。普通の悪徳警官。だから、レクター博士みたいなサイコパス的なノリはあんまりないんです。それどころか、一生懸命頑張ってる。頑張って走ったりね。ただ、ところどころに「あれ?」「こいつ、やっぱりなんか変だぞ」というのを入れる塩梅が素晴らしい。ここら辺は、大変だったと思います。

 

 

 上映時間の短さに関しては、これは逆に良かったというか、語り口の上手さが際立つ結果につながったと思います。

 と言うのも、この映画はかなり情報を厳しく刈り込んでいて、一見すると説明不足に思える箇所が幾つもあります。

 それこそ、主人公たちが家出しているかどうか、最初は前情報なしだと分かりません。家の近所で遊んでるだけにも見えます。それを、少ない言葉であったり、情報で次第に肉付けしていく。なんで家出してるかの説明も全くありません。しかし、家族構成を聞かれるシーンで、それが若干分かるわけです。「ああ、この子は新しい父親とうまく行ってないのかな」とか、「お祖母ちゃんとばっかり遊んでいて、刺激が欲しかったのかな」とか。とにかく、情報は出すけれども、必要最低限で抑える。後は、物語の進行を邪魔させないようにする。それがこの映画の特徴です。

 そもそも、トランクにいたおじさんや、最初に死体処理されていた人も、なんでそうなっているかは分かりません。ケビン・ベーコンの悪事も「おそらく麻薬関係だろう」ということは分かりますが、何をしていたかまでは分かりません。そこも含めて、全てがきっちりと管理された情報統制の中で物語が進んでいきます。

 そう、すべての情報が管理されています。一シーン一シーンに意味があり、息もつかせない緊迫感があります。この緊迫感を2時間以上続けられると、逆につかれます。それに、これこそが映画の楽しみだ、とも言えます。

 近年、映画はそのお株を長編ドラマに奪われています。映画以上の予算規模で作られたドラマたちに比べ、映画というものがどうやって太刀打ちするのか。時間を長くして、前編後編に分ける? いえ、違います。逆に要素を切り詰めて、短くすることです。

 これは、昨年の話題作『マッドマックス 怒りのデスロード』でもそうだったかと思います。あの作品はもう少し長い作品でしたが、それでも要素を徹底して切り取り、必要な情報以外は出さず、物語の邪魔をさせないようにしたことで、緊迫感とドライブ感を演出していました。そのせいか、あの映画は観た後異様に疲れます。情報量が多いから。

 この映画も、実際に画面や言葉に付随する情報は多いです。しかし、それは非常に厳格に管理された情報なので、観客の物語への没入を邪魔しません。登場人物、場面、言葉、すべての要素を必要最低限に切り詰め、大事なことだけを客に伝える。これが、今後の映画の指針になるかもしれません。

 

 とまぁ、色々イイましたが、単なる少年二人のハチャメチャ珍道中としても充分楽しめる作品だと思います。

 個人的には、85点です。